7月19日(月)−4
長い長いガイドの話を聞いたあとは、城の前で開催されいてるVide Grenierに寄るよ。
これは日本でいうフリーマーケットのようなものなのだ、とはこちらに来る前からちょっとは聞いていた。
ふーん、フリーマーケットか。
東京の外苑前だとか砧公園なんかで開催されるフリーマーケットの風景を思い出して、実は少々面倒だな、収穫はないんだろうなと思って足を運んだ自分がいる。私はフリーマーケットはあまり好きではない。見知らぬ誰かの生活の中で生み出された日用品の使い古しを、ただ安いというだけで安易に手に入れることに、あまり意味を感じない。回るなら一世代以上の時を経たものを扱う骨董市のほうがいい。何も買わなくても、見て歩く楽しみが骨董市にはある。
そんな私の思惑は、実際に城の前のVide Grenierを見て一気に吹っ飛ぶ。
なんたって、ここはフランスなのだ。
古いものが大好き、アンティークが大好きな国フランス。
普通の市民が持ち込むものが、すでにアンティークなのだよ。
もちろん、こうして出店している人の中にはアンティークの販売を生業にしている人たちも多い。でも、普通の家庭からやってきたようなおばちゃんが広げている店の中に、えも言われぬかわいい掘り出し物が混じっている。しかも、驚くほど安い。
ひゃあ、これはすごいぞ。
長いガイドのフランス語を聞き取ることで死に体になっていた脳みそががぜん活気付く。
重いじゃないか、持って帰れるのか、割れちゃうよ? なんていう思惑とうらはらに、「これいくら?」「これください」と店を回る私の横で、クロディーンも「このタジン鍋いいわああ」「それはお買い得よ、ぜひ買いなさい!」なんて活気付いている。
なんともいえない形と色が気に入ったオイル&ビネガーのポット。2個で1ユーロ!
小さいカフェオレボウルとタンブラのセット、これだけ揃って1ユーロ!
あかん、きりがない。東京で雑貨屋でもしている人には、きっとここはお宝の山だ。ああ、フランスってなんていいところなんだ!(笑)
さて、異様に脳みそが活性化したところで、私たちは移動しなくてはならないことに気付く。もうひとつ、Vide Grenierがある街があるのだ。早くそこに行かないと、店自体がしまってしまう。がちゃがちゃと戦利品をぶら下げて車に急ぐ。
車で20分ほど移動すると、今度は小さくてかわいらしい街に到着した。こちらのVide Grenierはもっと本格的で、町中が青空市と化している。飲食店や名産品の出店もあって、わくわくするような活気に満ちている。
あと30分ほどで店じまいになりそうだ。あわてて町の中をくまなく散策する。普通の家庭から持ち込まれたような雑貨類もあれば、アンティーク商の出店もある。歩いているとブルゴーニュ地方のシャンパーニュをふるまわれ、こんな素敵なはちみつ売りのおばちゃんに「ほら、食べていって」とはちみつ付きのパンを渡される。
パリが好きだという私に、これまで多くの人が「田舎を旅してみろ」と言った。その理由が今わかった気がした。フランス人が好んで使う sympa (気がおけないいい感じ)という言葉は、こういう時に使うのだろうと思う。「田舎よりパリ」とかたくなに言い続けてきたはずの私は、もうすっかりフランスの田舎町のとりこになりはじめている。
そしてここでも、フランス人の古いもの好きがいたるところに。何に使うのだ? 何の役に立つ? というような不思議なものも並ぶ中、私が買ったのは、4客で50セントという驚異的な値段で売られていた、カフェド・マキシムのエスプレッソカップ。
ごめんね、ソーサーがないのよ、だから50セントでいいわと、申し訳なさそうにきれいなおねえちゃん。とんでもございません。ありがたく買わせていただきます。4個で60円なんて、タダ同然だもの。
これはシュガーボウルよ。ほら、ここに砂糖を入れて、この穴の開いたスプーンを使えば、お菓子の上にまんべんなく砂糖を振ることができるの。
チャーミングなおばあちゃんの説明に惚れて、こちらは少々値の張る20ユーロ。でも、パリの骨董市なぞに比べれば、嘘のような値段じゃろ?
がっしりとしたガラスのポットはたったの5ユーロ。
隣ではクロディーンがばらの花柄のちょっとアンティーク風のカップをみつけて、「これこれ! まさに私はこういうのを探していたの!」と買い込み、さらにその先の店では、どう考えても自分で配線をして天井にビス止めをしないと使えなさそうな照明器具を買い込んでいる。
「このカップはね、入院している私のお友達のお見舞いに持っていくわ。きっと彼女、すごく喜ぶに違いない」
「照明は誰かにつけるのを手伝ってもらわなくちゃ」
古くても、少々面倒でも好きなものは好き。ブランドやお店の名前や、雑誌で流行ってるとかなんてことに関係なく、ちゃんと好きなものを見分けられる目を持つことは、とても大切なことだ。
「フランス人はこういうVide Grenierが大好きなのよ。私も、こういう中で使えるもの、気に入ったものを探して歩くのが大好き」
東京のフリーマーケットは苦手な私だけれど、ここなら何度来てもいい。6時になり、店が閉まり始めるまで、私たちはそこに居た。大漁だ! ほんとに楽しかった。
きゃあきゃあと学生のように騒ぎながらたくさんの荷物をかかえて家に戻り、戦利品をテーブルに並べたとき、再び
「どうやって持って帰るんだ」という現実に直面する。
まあ、なんとかなるやね。
よかった、よかった、とにかく楽しかった。
一日目はそんな風に、なんだかずっとハイテンションのままで終わっていった。
楽しくて、忙しくて、必死だった。